ロストマーブルズ
 走って去ろうとしたキノの腕をジョーイは咄嗟に掴んでいた。

 掴んだ方も掴まれた方も思わぬ接触にお互い顔を合わせた。
 その一瞬でドキドキとして、どちらの心臓も早鐘を打った。

「ご、ごめん。その色々と聞きたいことがあるんだ」

 咄嗟に手を離せば、せき止めていた熱いものが一気に体から溢れ出る。
 ジョーイがこんなにも、胸を高鳴らせて焦ったのは初めてだった。

「あの、一体なんでしょう」

 怖がっているともとれるくらいの小さな声。
 キノは身を縮めながら質問を覚悟した。

 その時、学校のチャイムが鳴り出した。
 タイミングが悪いとばかりジョーイは顔を歪める。
 このチャンスを逃せば、また次いつ訊きたいことが訊けるか分からない。ジョーイは恥を忍んで覚悟する。
 それは自棄を起こして暴走していた。

「なあ、今日、夜桜祭り一緒に行こう。放課後校門で待ってるから。それじゃまたな」

 ジョーイは返事も聞かず走り出した。
 自分が桜のように頬が染まった祭り状態だと、体の中のガスを抜くように猛スピードで走っていった。
「何やってんだ俺……」

 キノはその場で暫く突っ立っていたが、自分も遅れるとばかりに慌てて校舎へと走っていった。

 キノもまた考える余裕がないまま、鳴り終わりそうなチャイムの中、スカートの裾が大きく揺れて、パンツが見えてもお構いなしなくらい必死に駆けていた。
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