ロストマーブルズ
 教室に飛び込んだジョーイは、息切れを起こしていたが、それは走ったことによるものなのか、血迷ってキノをデートに誘ったことなのか、ドキドキとする心臓辺りを押さえながら戸惑っていた。

 体が熱く火照って、胸の鼓動のドキドキが中々止まらない。
 自分の席に着くと、突然燃え尽きたように、ヘナヘナと体の力が抜けて机の上に覆いかぶさっていた。

(俺、何やってんだ?)

 その後、シアーズが教室にやってきて、ホームルームが始まってもふにゃっとしたままだった。

 シアーズが睨みを利かした目でジョーイを一瞥する。
 それでもお構いなしにジョーイは自分の世界に入り込んでいた。

 シアーズも特に注意をすることなかったが、たるんだジョーイの態度に少し訝しげな目を向けていた。

 ホームルームが終わると、シアーズはその態度が気に食わなかったのかジョーイの側にやって来た。

「(ジョーイ、今日の放課後でいいから、私のところに来なさい)」
 ジョーイは突然のことに面食らった。
 何か言おうとしたが、シアーズは返事も待たずにさっさと教室を後にした。

「ちぇっ、ついてねぇ」

 ジョーイは突然の呼び出しに、納得いかず、放課後のキノとの約束に支障をきたすのではと心配になっていた。

「おい、ジョーイ、シアーズに呼び出しくらっちまったな。なんかあったのか?」

 トニーが心配している素振りを見せながら近寄って来るが、ニタッと白い歯を見せたところで茶化していた。

「えっ、何もしてないのに呼び出されちまったぜ。くそ! シアーズめ」

「日ごろの態度が悪いからシアーズも我慢の限界だったんだろうな」

「俺、そんなに態度悪いか?」

「ああ、無茶苦茶生意気だぜ。まあそれがお前らしいんだけどな。やっぱ年上には失礼なんじゃないか」

「面倒くせー、特に今日は急いでるのに」

「ああ、そういえばカウンセリングの日だったな。少しくらい遅れてもいいんじゃないか」

「えっ、ああ、そ、そうだな」

 トニーの前ではカウンセリングのことになっていた。
 まさかキノと夜桜祭りにいくなんて言えない。
 しかし、その裏に意図されたギーの連絡のことも気になる。

 キノのことで浮かれている場合じゃなかったと自制するも、自分の置かれている状況がわからなくなってしまい、表情に翳りが出てしまった。

「どうした? なんか他にあるのか?」
「いや、なんでもない」

 ジョーイは一時間目の教科書を鞄から取り出す。
 そして担当の先生が現れるとトニーも自分の席に戻り、いつも通りの授業が始まった。
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