ロストマーブルズ
第六章 近づく者、離れる者

 土曜日の朝、ジョーイは不機嫌なままの態度でトニーと駅に向かっていた。

「おい、いい加減に機嫌直してくれよ、ジョーイ。勝手なことして悪かったよ」

 ひたすら謝り続けるトニーだったが、ジョーイの機嫌が悪い原因はトニーの勝手な行動だけではなかった。

 複雑に入り組んでジョーイ自身、訳が分からなくなっている。

 お蔭でぐっすりと眠れず、さらに頭も痛かった。

「済んだことは仕方がない。もういいから、少し黙っていてくれないか」

 明らかにトニーに八つ当たりする、怒り口調だった。

 こういう事は初めてではない。
 ジョーイの悪い癖だといつもは割り切るトニーだったが、自分ばかりが機嫌を伺うことに辟易してきた。

 自分に非がある場合、特に容赦なく噛み付いてくるジョーイの不遜な態度。
 普段であっても、機嫌が悪ければ、露骨に蔑ろにしてくるだけに、絶えず上下関係を見せられ、トニーは耐えられなくなってきた。

「あのさ、俺が悪いのは分かってるけど、ジョーイは常に自分主義だよな。少しは立場の弱い者のことも考えてくれ」
「立場が弱いってどういうことだよ。トニーは俺以上になんでも好きなことやってるじゃないか」
「ジョーイが思ってるほど、俺はそんなに自由じゃねぇーよ」
「なんだよ、今度は逆切れかよ」

 トニーは口をぎゅっと閉じて黙り込んでしまった。
 そしてその後一言も発せずに学校まで来てしまう。
 学校に着けば、トニーは知ってる顔を見る度に笑顔になって挨拶をしだした。

 まるでジョーイなどもう知らないというばかりに、あからさまに見せ付けるようだった。

 ジョーイも意地を張ってしまい、ふんとわざとらしく苛ついている態度を取ってしまう。
 そんなときにシアーズに会うから、益々ふてくされてしまった。

「(ジョーイ、今日も居残りしたいのか)」

 それはごめんだとばかりにわざとらしく「グッドモーニング」と日本語の発音でバカ丁寧に答えていた。
 シアーズは頭を左右に振り呆れていた。
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