ロストマーブルズ
「あの、それじゃ私これで」

 居心地が悪かったのか、その場から逃げ出したかったのか、キノが去ろうとする。

「待てよ。どうせ帰るところ同じだろ。一緒に帰らないか……」

 キノも驚いていたが、ジョーイ自身も自分が誘ったことが信じられないとばかり、焦ってもじもじと落ち着かない。

 暫くどうしようかと悩んだ顔つきになりながらも、キノは決心したように「は、はい」と、どもって返事をした。

 スムーズに事が運びながら、ジョーイはその成り行きに驚いてしまう。

 やっと二人して話ができるというのに、そしてずっとこの時を待っていたのに、肩を一緒に並べて歩いても、ジョーイの口から言葉が思うように出ない。
 このままではいけないとばかりに、無理をして腹にぐっと力を入れて声を絞り出した。

「あのさ、前から色々聞きたい事があったんだけど、その……」

 あれだけ知りたいことが色々あっても、質問が纏まらない。

「な、なんですか」

 キノもまた何を聞かれるのかとおどおどしている。
 ジョーイはとにかくまず犬の事から話し出した。

「犬飼ってるのか?」
「は、はい」
「その犬、盲導犬なのか?」
「はい、一応。でもなんで知ってるんですか?」
「訓練中って服をつけたその犬をキノが連れてるところ見たことあるんだ。でもなんでキノが盲導犬世話してんだ?」
「色々と事情がありまして、今預かってるだけです」
「事情って?」
「それはプライベートなことなので……」

 キノは言いにくそうに下を向く。

「ああ、すまない」
「でもどうしてそんなことを訊くの?」
「いや、そのコンビニ強盗があっただろ。あの時の犬が……」

 ジョーイが言い終わる前にキノは言葉を遮り、はぐらかそうと必死になった。
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