ロストマーブルズ
「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
「それだったらいいんです」

 二人にしかわからない会話をしていることに優越感を抱いて、リルはキノをちらりと見た。

 キノは挨拶程度にニコリと返すが、リルは愛想笑いする事もなかった。

「この人が、キノね」

 ジョーイが前日口にした女の子だと、リルは直感した。
 そこにライバル意識も芽生えている。

 なにやらぬ不穏をジョーイは感じ取った。

 キノも挑んでくるリルの視線を気にし、わざとらしく腕時計を見つめる。

「ジョーイ、そろそろ電車が来る時間。私それに乗りたいから行くね」

 キノは二人に気を遣って、さっさと行ってしまった。

「俺も、それに乗る。リル、それじゃまたな」

 またキノがするりと逃げていくのが嫌で、ジョーイは後を追った。

 置いてけぼりにされたリルは、感情をあからさまに顔に浮かべ、唇を無意識に噛んでいた。
< 155 / 320 >

この作品をシェア

pagetop