ロストマーブルズ

「今どこにいるの?」

 キノは辺りを見回しながら電話の対応をする。

 改札口付近のところで、背の高い男が周辺の人々に紛れ、携帯を耳にあてキノをじっと見ていたのに気がついた。

 キノはその存在を認めたくないように視線を逸らして背中を向けた。
 精一杯の抵抗だった。

「ずっとつけてたのね。さすがねノア」

「キノ、お前らしくない。これくらいの尾行にも気づいてないとは、よほど油断していたな」

「本当はノアがどこかで見てたくらい分かってた。でもそれを忘れたかっただけ」

「キノ、これ以上ジョーイに近づくのは危険だ。何をやってるのか分かってるのか」

「分かってるわ」

「だったらなぜ?」

「ノア、ごめん。もう少しだけ普通の高校生でいさせて」

「だめだ、そろそろ帰らないとFBIが活発に動き出した。学校にもその手がすでに回っているかもしれない。それに、このままではジョーイも真相に気がつくのも時間の問題だ。それだけは避けたいことだろ」

「でも、私……」

「いい加減にしろ、キノ。そこまで頑固なら俺も手を打つぞ。それでお前は悲しむことになるかもしれない」

「ノア、どうしてそこまでしなくっちゃいけないの?」

「それは、キノとそしてジョーイを守るためじゃないか」

 キノの肩に優しく手が置かれた。
 ノアがいつの間にか側までやってきていた。
 ノアは電話を耳から外し、キノを見つめて穏やかな笑顔を見せた。

「さあ、帰ろうか。ツクモが待ってる」

 二人は一緒に歩く。

 キノは俯き落胆し、虚ろな目でとぼとぼと足を動かしていた。
 ジョーイとミステリーの本について夢中で話したことを思い出し、ぐっと高鳴る胸の思いを押さえるように、胸元のシャツをぎゅっと掴んでいた。
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