ロストマーブルズ
 そしてグラウンドで、ユニフォームを着た選手達が列になって帽子を取って挨拶を交わし試合が始まる。

 あの聡は外野手でセンターにいた。

 周りが拍手や掛け声で騒がしくなっている。

 キノも聡が心配だとばかりに見守っている様子だった。

 ジョーイも折角誘われたので、ここは聡のいるチームを応援することにした。

 子供達の野球の試合と言えど、試合をしているものたちは一生懸命なのは理解できるが、周りの保護者の方がより一層力が入っているように見えるのは、親心というものなのだろう。

 そんな情景を見ていると、ふと過去に父親とキャッチボールをした記憶が蘇る。

 嬉しそうにボールを投げていたのは父親の方だったと、あの頃の無邪気だった自分がこんな風に育ってしまい、父親に対して何の感情も抱かなくなってしまうとは想像もできなかったとなんだか悲しくなってきた。

 普通ではないことを受け入れると早川真須美に言い切ったものの、こんな風になって生まれてきた自分には何か意味でもあるのだろうかと、やはり心の迷いは拭えなかった。

 ぼーと試合を見ていたが、ちょうどツーアウトのときに、センターフライがあがると聡がしっかりとそのボールを受け止めた。

 キノが突然大きな声を上げ、それを褒め称えて拍手を送っていた。

 ジョーイはキノの意外な面を見たと少し圧倒されたが、すぐに真似をして同じように声を出した。

 その場のノリに合わせる自分の方がびっくりな行動だったかもしれない。

 この後、二人で顔を見合わせて微笑んでしまう。

 妙に照れて、恥かしかったが、お互いの顔を見てるうちに楽しくなり、次第に慣れが生じてくる。

(今日は思うままに、感じるままに過ごしてみよう)

 ジョーイはキノの側に居ることで、抑えていた何かが飛び出てくるようだった。
< 178 / 320 >

この作品をシェア

pagetop