ロストマーブルズ
 一回の表が終了し、聡はグランドを走りながらキノの方向を見ているのがわかる。キノにしっかりと自分の姿をアピールしている様子だった。

「あの子、聡だっけ。なんだかはりきってるな」

「うん。聡君はいつも一生懸命頑張る子なの。お母さんを早くに亡くして、お父さんも仕事で忙しくて、いつもおばあちゃんが面倒みてるんだけど、とてもいい子に育ってる」

 知らない人に向かって「バカ」と言えるのが、いい子かどうかはさておき、家庭環境の複雑さに自分と同じ匂いを感じていた。

「そっか。でもなんだかキノに懐いている感じだな」

「バッティングセンターで知り合って、なんか意気投合しちゃったって感じかな」

「へぇ、バッティングセンターにも行くのか。そういえば、教わったこと全部やってみるって言ってたけど、コーチでもしたのか」

「えっ、そんな大げさな。ちょっとしたアドバイスだよ。ボールを良く見るとか、腰をもっと低くとか。基本的なことかな」

「キノは野球が好きなのか?」

「好きっていうより、体を鍛えるための趣味程度よ」

「へぇ、スポーツ得意なのか?」

「得意って言うよりも、ストレス発散に近いものがあるかも」

 そんな会話をしている中、聡のチームがヒットを打ち、誰かが一塁に走り出た。

 そして次は聡の打順だった。

「聡君! 頑張って!」

 またキノが声を張り上げた。おどおどとした消極的なイメージだったキノが、このとき全く別人に見えてくる。

 知り合いが出ているからいつになく興奮しているだけなのだろうか。

 ジョーイはキノの姿にギャップを感じて圧倒されていた。

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