ロストマーブルズ
 試合はそのまま進み、聡のチームは追加点を入れていつの間にか五点となっていた。だが相手チームも負けてはおらず、四点となりその差一点で、まだ勝利は最後まで分からなくなってきた。

 九回の表で相手チームが二点を入れたとき、立場が逆転となり、聡のチームはどこか焦りを感じていた。

「頑張れ!!」

 キノはしっかりと聡に届くように応援をしている。

 そして九回の裏、ツーアウト三塁、聡の打順だった。

 ここで点数を入れたいとばかりに聡は緊張する。

「聡君、落ち着いて」

 キノの言葉が届いたのか、聡はキノを見つめて、首を一度縦に振る。
 
 そしてまだ打っていないホームランをここで打つんだと意気込むように、バットを一度空に掲げてフォームを正す。

 このシチュエーションはジョーイもさすがにハラハラした。できることなら聡に頑張って欲しい。

 だが、こういうときに失敗するケースもある。

 どっちになるか考えるだけでも落ち着かずキリキリとしてくる。

 こんなにも力が入るなんてと、久々に感情が湧き起こってジョーイは知らずと隣に居たツクモを撫ぜようと手を伸ばしていた。

 だが先にキノもツクモを撫ぜていたために、ジョーイはキノの手に触れてしまった。

 ジョーイもキノも一瞬「ん?」と顔を合わせるとお互いの手が触れてることに気がつき慌ててしまう。

 どうしようと思っている時に、カキーンと勢いよく空に劈く音が鳴るとボールは高く打ち出され、それと同時に歓声が湧き起こった。

「あっ、打った」
 ジョーイが声を出す。

「聡君、行け!」
 キノも掛け声をかける。

 二人は、手に触れた恥ずかしさを誤魔化すように大声を出しながら、聡を応援する。

 聡は一心不乱に走り、応援も過熱していた。
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