ロストマーブルズ
「(キノ、よく聞きなさい。勝手な行動は慎むんだ。もうこれ以上ジョーイに接近してはいけない。ジョーイの記憶を刺激してなんになるというんだ。ジョーイは確実に過去のことを思い出している。そして当然アスカのことも。アスカはもう死んだんだ。それは君も分かってることだろ)」

「(でも、シアーズ先生……)」

 キノは振り返ったシアーズの目を懇願する思いで見つめた。

 ノアが運転する横で、シアーズは冷静に話を進める。

 学校では教師だが、この二人の前では組織のボスのように振る舞っていた。

「(ジョーイは今日のカウンセリングで変化が見られたそうだ。真須美が報告してきたよ。そしてノア、どうして勝手な行動の手助けをするんだ。リルとかいう生徒を巻き込んだそうだな)」

「(あれは、FBIのギーがキノを罠に掛けようとしたから、キノを守るにはああするしか……)」

 ノアが答えにくそうにしているとキノが庇った。


「(あれも私の責任です。ノアが考えたことではありません)」

「(あの日、キノがジョーイから夜桜祭りに誘われてそれを阻止するために私に報告したまではよかった。ジョーイを無理に居残らせてキノとの接触を避けた。あのまま放って置けばそれで済んだことだった)」

「(でもジョーイに危険が迫っていたのを無視することなどできませんでした)」

「(だからといって、関係ないものを巻き込んでどうする。それが却ってキノが手を回したことになるとギーが気づかないとでも思うのか? これ以上こじれる前に、キノ、アメリカへ帰りなさい。君には次の仕事が待っている)」

「(シアーズ先生、もう少し、もう少しだけ普通の高校生でいさせて下さい)」

 キノは恥を忍んですがった。
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