ロストマーブルズ

第九章 騒がしい周り

１

「なあ、トニー、過去の記憶と今を結びつけて代わりを求めていいものなのだろうか」

　優しい水色の空に、綿菓子のような白い雲が流れていくのを見つめながら、休み時間、教室の窓に寄りかかりジョーイが呟いた。

「ん？　なんでもありでいいんじゃないか」

　トニーは窓際の机の上に腰掛けて、携帯を弄りながら、上の空半分で返事する。

「おい、人が悩んでいるのに、もっと真面目に答えろよ」

「だから、恋に理由なんて求めるなってことだよ。お前は真面目だし、慣れてないから物事を自然に受け入れる姿勢ができてないんだよ。時には臨機応変に心のままに行動してみたらどうだ」

「いいよな、いい加減な奴はいとも簡単に受け入れられてお気軽で」

「あのな、俺もそれなりに悩みはあるんだぞ」

「例えばどんなだよ」

「俺だって今恋をして悩んでるんだ」

「それのどこがだよ。ヘラヘラして色んな女の子に声を掛けまくってる奴が」

「これは真剣な恋なんだ。でも俺なんて年下だし、身分も違うから苦しいんだよ」

「おい、まさかそれって教師の眞子ちゃんって言うんじゃないだろうな」

「おっ、さすがだね。正解」

「それは無謀だろうが。諦めろよ」

「俺はお前の恋を応援してやってるのに、俺には諦めろだと。やっぱりジョーイは冷たいな」

「冷たいとかじゃなくて、年も違うし、第一相手は教師だぜ。そんなのを恋の対象にするのか？」

「だから魅力的なんじゃないか。禁断の恋。燃えるぜ」

　話にならないとジョーイはそれ以上何も言わなかった。

　空を見つめつつ、ため息をこっそり漏らす。

「なあジョーイ、今日英会話ボランティアに一緒に行かないか。キノも来るかもしれないぜ」

　ジョーイのため息を聞いてトニーはさりげなく誘った。

「そうだな」

　流れる雲も風に後押しされている。

　風に吹かれて少しずつ形を変えていく雲を見つめていると、何か答えが見つかりそうだった。