ロストマーブルズ

 ジョーイが慌ててトニーの後を追えば、そこから歯の浮くような言葉が聞こえてきて、恥かしくなってしまった。

 トニーは教師と生徒という間柄も忘れ、甘い言葉を惜しげもなく囁き、積極的に眞子を口説いている。
 
 眞子は教師からぬ色気を出して、トニーを益々促しているように思えてならない。

 そこに何か企みがあるような、意図されたものをジョーイは感じ取っていた。
 
 廊下を曲がったところで、シアーズと鉢合わせになり、眞子は表情を変えて挨拶をする。

 シアーズは眞子に目礼し、その後黙ってジョーイを一瞥するが、いつもの小言は省略され、代わりにトニーに視線を向けた。

「(トニー、少しいいか)」

 シアーズから顎で指図され、トニーは支配される威圧感に舌打ちする。

 静かに歩き出したシアーズの背後で、トニーはジョーイに向けて肩を竦めた。

 ジョーイが何か話しかけようと心配した目を向けると、トニーはおどけてウインクして、すぐさまシアーズを追いかけて行った。

 二人が廊下の奥へと消えていく様子をジョーイは不安げに見ていた。
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