ロストマーブルズ
「なあ、さっきあの男のことで何を言おうとしてたんだい?」

 ジョーイが何気に問いかけると、ドアが開き、次々に人が降りていく。

 それに押されるように二人も電車から降りたとたん、辺りは人でごった返しとなり、雑踏に揉まれた。

 トニーはジョーイの質問が聞こえなかったのか、違う答えを返してきた。

「俺、やっぱり一人でナンパしてくるわ。ジョーイ先に帰っててくれ」

「いきなりどうしたんだよ」

「じゃーな」

 トニーは慌てるように辺りをキョロキョロして、ジョーイをその場に置き去り、人ごみの中に紛れていった。

 あれだけ目立つ容姿なのに、大きな駅では人の波にのまれあっという間にどこへ行ったのかわからなくなってしまった。

「一体どうしたんだ。あいつらしくない行動だ」

 そんな独り言もざわめきに飲み込まれ、慌しく人が水のように流れていく。

 ジョーイは仕方なく歩き始めるが、手に持っていたビー玉に気がつくとキノのことが気になり始めた。

 咄嗟に辺りを見回しキノがいないか探し出した。

 トニーですらすぐに姿を消した人ごみの中では、キノの姿はもう疾うにそこにはなかった。

 ビー玉を制服の上着のポケットに入れ、鞄を肩に掛けなおすと、ジョーイは乗り換えのホームへと歩いていった。
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