ロストマーブルズ

「どうしたんだ、キノ? あれ、あの犬、ツクモじゃないのか。隣に居る奴は誰だ?」

 キノが見ている方向をジョーイも見れば、訓練中と書かれた布をまとったラブラドールの犬と男が前から近づいてくる。

 そしてキノの前であざとく立ち止まった。

 ツクモもかしこまってその男の隣に座った。

 薄暗い電灯に照らされた男の顔は、初めて会った気がしない。

 見覚えがある、その男の顔は、ジョーイを睨んでいた。

「キノ、遅いじゃないか。こんな時間まで何をしていたんだ。心配するだろう」

「ごめんなさい」

「ところでその隣に居る奴は誰なんだ?」

 知っているくせにわざとらしく訊かれると、キノは目の前の男が憎らしくなった。

「こ、この人は……」

 キノが言う前にジョーイが背筋を伸ばし、礼儀正しく自己紹介する。

「俺は、ジョーイといいます」

「キノの友達かね。すまないがキノには近づかないでくれるか。悪い虫がついては困るのでね」

「ノア!」

 そんな言い方はやめてと怒りをぶつけたいのに、名前を呼ぶだけしかキノにはできなかった。

「さあキノ、帰ろう」

 二人を引き裂こうとする冷たい声だった。
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