ロストマーブルズ
「でも今姿を消したら、ジョーイは益々疑問に持つ。私達が話せば、なんとか誤魔化せるかも」

「キノ、そこまでしてまだここに残りたいのか。ジョーイに嘘はもう通用しない。諦めるんだ。後の処理はシアーズ先生に任せればいい。とにかく俺は今からその準備にかかる」

 キノはもうだめだと思った。

 自分が抵抗しても上からの命令には背けない。

 このままではジョーイにはもう会えなくなってしまう。

 キノは眼鏡を外し、覚悟を決めたようにノアに哀れみの目を向けた。

「だったら、最後に一つだけ願いを聞いて欲しい。これが最後の私の我侭だと思って」

 キノはノアにそっと告げる。そしてノアは「わかった」と頷いた。

 ノアが部屋から去って、ドアがバタンと閉まった音が聞こえると、キノはツクモを呼び寄せた。

 ツクモは小さく鼻を「クーン」と鳴らして側に寄って悲しそうな目を向けた。

「ツクモ、後をよろしくね」

 キノはツクモを抱きしめながら殺風景な部屋で泣きじゃくっていた。
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