ロストマーブルズ

 ジョーイが疲れ果てて家に戻り、玄関のドアを開けると、二階からトニーの嘆き声が聞こえてきた。

 あからさまに怒りを何かにぶつけ、暴れている。

 ジョーイは慌てて階段を駆け上がった。

「どうした、トニー」

 部屋のドアを開けると、トニーは手当たり次第にモノを投げつけめちゃくちゃにしていた。

「おい、何をしてるんだ。やめろ、トニー」

 暴れるトニーの腕を掴み、押さえ込む。

「離せ、放っておいてくれ」

「こんな状態を見て放っておけるか。ここは俺の家だ。これ以上物を壊すな」
「うるさい。俺の勝手だ」

「落ち着け、一体何があったんだ。お前また酒の匂いがするぞ」

 トニーはジョーイの腕を払い、そして落ちていた本を壁に投げつけた。

「おい、やめろ!」

 ジョーイは咄嗟にトニーの頬を殴ってしまった。

 トニーはその拍子に後ろに倒れこみ、床に尻餅をついてしまう。

「いい加減にしろ。いくら酔っ払ってるからってやっていい事と悪いことがあるぞ」

 頬を押さえ込み、座り込んだままトニーは肩を震わせている。

「俺は欠陥品なんかじゃない」

 トニーは悔しさで歯を食いしばっていた。

「トニー、一体誰と飲んだんだ。未成年のお前が酒なんか一人で飲める訳がないだろ。側に誰かがいたんだろ。そいつに何か言われたのか」

「ジョーイ、お前は完璧な人間なのか、いや、それ以上なのか」

「おい、何を話しているんだ。とにかく酔いを醒ませ」

「俺は酔ってなんかない。酔ってない」

 だが呂律が回ってなかった。

「分かったから、今日はもう寝ろ。そして明日片付けろよ」

 部屋を出て行こうとするジョーイを、トニーは呼び止めた。
< 248 / 320 >

この作品をシェア

pagetop