ロストマーブルズ
「あの、その」

 何が起こっているのかわからないまま、キノはおろおろしていた。

「ほら、これ、お前のビー玉だろ」

 側にいた女の子を無視するかのように、ジョーイはキノにビー玉を渡そうとする。

 キノはそっと手を出して、それを受け取った。

「あ、ありがとう」

「お前、なんか困ってるのか?」

 ちらりと側にいた女の子を一瞥し、ジョーイが助け舟を出そうとしていた。

「えっ? 困ってる?」

 そういったのは側にいた女の子だった。

「やだー、私が何かキノちゃんに変なことしてるみたいじゃないの。キノちゃん、ちゃんと説明してよ」

 キノはそれでも何を話していいのか、この事態がどうなっているのかすら分からずに言葉を失っていた。

「もう、キノちゃんらしくない。あの時のキノちゃんと別人みたい」

「別人?」

 ジョーイは気になる言葉だけ拾って繰り返していた。

「あのね、私から説明すると、キノちゃんは私の恩人なの。この間電車で痴漢に遭って困ってたところをキノちゃんが助けてくれたの。またキノちゃんに出会ったからお礼を言ってただけだったの」

「痴漢に遭った?」

 ジョーイがまた繰り返す。
 そして女の子をまじまじ見ると、整ったプロポーションと長いつややかな黒髪が意味を成して突然目に飛び込む。
 そしてグラビアの表紙を飾りそうなほどの美しい顔で、思いっきり微笑んでいた。

 痴漢が寄って来る気持ちが分かるほど、ファンがいてもおかしくないくらい、その女の子は男を必ず虜にしそうだった。
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