ロストマーブルズ
「そうなのよ。満員電車の中で私が困っているのを察知したのか、キノちゃん『あっ』って大声出して、押すように私に寄ってきて、『大丈夫ですか』って助けてくれたの」

「だからあれは偶然で、たまたま揺れた時にバランスを崩して近くに居た詩織さんに突進してしまっただけなんです。だからびっくりして声を上げて、そしてぶつかったから大丈夫ですかって言っただけで……」

「いや、あれは違う。ちゃんと計算してやってくれたんだよ。一緒にいた私の友達もキノちゃんの行動はわざとだって言ってた」

 何を言っても詩織はいいように捉えているのか、キノは困ったとばかり下を向いていた。

 ジョーイはどうも詩織の話は信じられないようで、勘違いされてるなと半ば同情するようにキノに視線を向けた。

「それでその後痴漢を捕まえたのかい?」

 警察にでも突き出してたらある程度は信じられるとでもいいたげに、ジョーイは質問した。

「ううん、残念ながらはっきりと特定できなかった。でもそれから私も勇気が出て、いやな時は大声出そうと思った。今度痴漢に遭ったらやめて下さいって主張して派手に動いてやるんだ」

 ガッツポーズまで取る詩織の仕草にジョーイはお好きにどうぞと、冷めた目つきになっていた。
 それでも詩織は選挙キャンペーンのように売り込んだ笑顔を崩さなかった。
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