ロストマーブルズ
「(一ユーロの硬貨の片面はユーロ加盟国全て共通したデザインだが、もう片面は各国の独自のデザインだ)」

 ジョーイはコインをひっくり返した。そこにはふくろうの絵が描かれてあった。

「(それはギリシャが発行したものだ。ふくろうのデザインは、古代アテネで発行されたテトラドラクマ銀貨から採用されている)」

「(だからそのテトラドラクマ銀貨がどうしたっていうんだ)」

「(何かの役に立つと思ってな。持っておけ)」

 ジョーイは挨拶もせず、硬貨を手にして部屋を出て行った。

 大豆の次はコインの謎だった。

 それを上着のポケットにしまいこみ、廊下を気だるく歩いていく。

 知ってしまった真実が重苦しく、蹴散らしたいほどに心の中で不快にへばりついていた。

 知らなかっ時には戻れず、このまま背負っていくしかない。

 ズボンのポケットに手を突っ込みやるせなくなっていた。

 廊下の窓の外から見える空を見つめる。

「キノも同じ空を見ているだろうか」

 キノを思う気持ちだけが胸に残り、苦しくなっていた。
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