ロストマーブルズ
「あっ、私もう行かなくっちゃ」

 腕時計を見てキノは時間を気にしながら叫んだ。

 そしてジョーイと詩織を残し、逃げるようにさようならと挨拶をして小走りに去っていった。

「あっ、キノちゃん。今度ゆっくり会おうね」

 詩織は咄嗟に声を掛けるが、反応もないままキノは一番端のホームへと続く階段を下りて行った。

「あいつ、なんか変な奴だな」
 ジョーイがポロリとこぼす。

「キノちゃんってどこか不思議なところがあるけど、あの子なんだか自分の妹みたいでほっとけないって感じがする」

「妹……」

 ジョーイはその時、おぼろげな記憶の中のアスカが浮かび上がる。


 箱に入っていたビー玉を床にばら撒くアスカ。
 目に飛び込んだ沢山の転がったビー玉。
 そして瞬時に同時に叫ぶ。

「86個」

「あたしの方が早かったもん」

「いや、僕の方が0.8秒早かったぞ」

「違うもん、あたしの方が早くビー玉の数を数えたもん」

 二人は意地を張っていたが、すぐに顔を見合わせて笑っていた。

 ビー玉の数をどちらが早く数えられるか競争してた記憶だったが、瞬時に数を言い当てたというより、数を素早く叫んだ時点でお互い箱に何個入ってるか予め知っていたとしか思えなかった。

< 28 / 320 >

この作品をシェア

pagetop