ロストマーブルズ
第十二章 ゴールしたビー玉

 不敵に笑みを浮かべ、狂った目つきを突きつけながら、ギーは包丁を面白半分に握って弄んでいる。

 時々尖った部分をジョーイに向けては、いつでも刺す準備ができていると脅していた。

 鈍く光る包丁の切れ味はジョーイも良く知っていた。

「(ギー、家に上がるときぐらい靴を脱げ。ここは日本だ)」

 ジョーイは平常心を保っていると知らしめたくてそんな口を叩いたが、それが強がりにしか見えなかった。

 ギーはそれを鼻で笑っていた。

 自分の家の包丁だというのに、それが凶器として使われている。あれを握って自分が料理していたというのに、持つものによって、こんなにも脅威を感じるとは思わなかった。
 
 トニーは手足を縛られた状態でうつぶせになりながら、時折エビのように体をそらして、ソファーの上で跳ねていた。

 訴えるような目でジョーイに逃げろと何度も示唆している。

 そんなことができるかと、ジョーイも必死な表情でトニーを見つめ返した。
 ギーはトニーの側に寄り、ソファーの端に軽く腰掛け、トニーの髪の毛を鷲掴みにして、持ち上げた。

 トニーは痛いと顔を顰め、体をバタバタと跳ねて抵抗するも、喉下に包丁を突きつけられて、ピタッと動きが止まった。

 包丁のひんやりとした感触を、トニーは顔を青ざめながら味わっていた。
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