ロストマーブルズ

 電車は到着を知らせる、けたたましく鳴り響く音をお供に、ホームにちょうど入ってきたところだった。

 乗客たちは、乗り込もうと、ぞろぞろと印のついた白線の内側に集まり、列になる。

 何気に視線を向けたところ、人と人との間にふとピントがあったように、前の車両に乗り込もうとしているのキノ姿が浮かび上がった。

 ドアが開こうとしたとき、キノは隣にいた女性に気遣い笑顔を見せていた。
 
相手は小柄でヘコヘコとキノに頭を常に下げている。

 お互い顔見知りな様子。

 その女性は白髪で古風にも地味な訪問着を着て紙袋を提げていた。

 キノは過度に頭を下げられて恐縮しながらも、優しく労わっているように見受けられた。

 ドアが開くと同時に、乗車していた乗客が降り、ホームは一斉に降りてきた人の波が、大きく広がり混雑し始める。

 それがいい具合にカムフラージュのように働いて、ジョーイはドサクサに紛れてキノと同じ車両に離れて乗り込む。

 ちょうど乗り込む客も手伝って、ジョーイは気づかれることもなく、離れた場所で座席に座ることができた。

 座席は全て埋まり、何人かは立っている。

 キノは車両の一番端に設置されている優先座席の前に立ち、前に座っている人と話をしているのか笑顔で対応していた。

 そこにはおばあちゃんと呼べそうな、先ほどの女性がにこやかにキノに話し掛けていた。

(あいつ何話してるんだ。さっきのおどおどした態度とは全く違うじゃないか)

 消極的で自分の意見などはっきりといわないように見えたキノだったが、おばあちゃんを相手にしているときは、ハキハキと受け答えしている。

 ビー玉を散りばめてあたふたしていたドジそうな女の子とは思えないほど、しっかりとしていた。
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