ロストマーブルズ
「ちょっと留守している間に、好き勝手なことして。どこでそんな犬拾ってきたのよ。とにかく、まずはお風呂入りたい。話はそれからだわ。ジョーイ、悪いけどスーツケース部屋まで運んでちょうだい。ちゃんとお土産買ってきたからね」

 玄関の三和土に置き去りにされたスーツケースを、ジョーイは黙って家に上げた。

 サクラはツクモを困ったように横目で見つめながら、自分の部屋に入っていく。

 ジョーイが後から部屋に入れば、サクラは箪笥の上に飾られた写真の前で、呆然と立ちすくんでいた。

「ジョーイ……」

 何かを恐れるように、サクラは振り返る。

「ああ、母さん、シアーズ先生から話は聞いたよ」

 サクラは力が抜けてペタンと畳に座り込んでしまった。泣き笑ったような顔が、諦めたようにも、気が楽になったようにも見える。

「そう、私がいない間に何かあったのね。そっか、もう隠さなくてもいいのね。ジョーイ、ごめんね」

 ジョーイは写真立てを手に取り、それをもう一度よく見つめる。

 若い頃の母親は、息子心ながらも、やはりきれいだった。

 そして今も、年を重ねていても、そう思える。

 自分以上に辛い思いをした母親の苦労。

 心を閉ざした息子を心配する気持ち。

 自分の事ばかり考えていたのが恥かしくなるくらい、よく見えていた。
< 301 / 320 >

この作品をシェア

pagetop