ロストマーブルズ
「何も母さんが謝ることなんてないよ。俺もショックだったけど、否定しても真実は変えられないから受け入れる事にしたんだ。だけどすぐには消化できそうもないけどね」

 今はこれがジョーイの精一杯の譲歩だったけど、確実に大人になっていく息子にサクラは誇りに思えた。

「ジョーイ」

 サクラも、込み上げる思いに、名前を呟くだけで精一杯だった。徐々に涙が溢れてくる。

「母さん、泣くなよ。母さんの方がもっと辛い思いしただろ。俺を守るためとはいえ、ずっとダディのこと話せなくて、そして俺を一人で育ててくれた。感謝しているくらいだ。もうこれからは俺のこと気にしなくていいから。俺も母さんを助けるから」

「ジョーイ、ありがとう」

 何よりも一番嬉しい言葉だった。

「だけど、この写真に写ってるこいつ、誰なんだ?」

 ジョーイは髪の長い、髭の生えたワイルドな風貌の男を指差す。

「それは、あなたのダディの弟よ」

「それじゃ、おれの叔父さんになる人か。ダディに弟がいたなんて知らなかった。今この人どこにいるんだい? ダディと同じように行方不明なのか?」

「そうね、表向きはそうなってるわ。名前を変えてロバートと関係がないようにその人も生きている」

「そっか。それじゃ叔父さんにも会えないってことか」

「ううん、彼には会えるわよ。というより、いつも側にいて会ってるじゃない」

「えっ、それってどういうことだ」

「シアーズ先生よ」
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