ロストマーブルズ
「ちゃんとそれを渡したからな。それに中身は俺は見てないからな。キノと固く約束したんだ。必ず無事にそれを必要としている人に渡すって。それがまさか、お兄ちゃんとは思わなかったけどさ。だけどキノはどうしたんだ? なんでお兄ちゃんがツクモを連れてるの? 一体、その赤い缶には何が入ってるの?」

 聡は足元で寄り添うツクモを撫ぜながら、取り留めもなく訊いた。

 まずはキノのことを話さなければならなかった。

 それがジョーイにも辛いことであるから、自然と声が沈んでしまう。

「キノは…… アメリカに帰ったんだ」

「えっ、なんで? 嘘だろ」

 生意気な聡が、簡単に動揺し、瞳が潤っては純粋な子供らしく泣きそうな顔になっている。

 ジョーイの中の聡のイメージが違うものに書き換えられ、弱い部分にまだまだあどけない幼さを感じた。

 キノが本気で好きだったのだろう。

 そんな男としての恋心までもが見えてくる。

 思いを募らせながらも、どうすることもできない聡は急にしゅんとなり、ジョーイにすがる目を向けていた。

「また、いつかキノ戻ってくるかな」

 震える涙声の聡の気持ちはジョーイには痛いほど伝わってくる。

「そうだな。いつかまた会えるときが来るさ」

 自分もそうでありたいとジョーイも願う。

 精一杯の慰めの笑みを聡に向け、そしてジョーイはキノが残した缶の蓋に手をかけた。

 キノが開けようとした時は、いかにも固くて難しそうにしていたのに、ジョーイが試すと、缶の蓋はちょっと持ち上げただけで簡単に開いた。

 中を覗き込めば、ビー玉が一つ入っているのが見えた。

 それを取り出してジョーイは水を掛けられたくらいはっとして固まった。

 傍にいた聡は、不思議そうにジョーイを見つめながらも、陽光に反射してきらりと光ったビー玉にすぐさま魅了された。

「それ、すごい綺麗な虹色のビー玉だね。宝石みたい」

 聡にもそのビー玉は虹色に見えていた。

 震える指先でそれをつまみ、ジョーイは太陽にかざした。

 神秘的な七色の美しい渦が合わさり、宇宙の星のような細かなラメが周りにちりばめられているビー玉。

 それが今、キラキラ光ってジョーイの手元にある。

「アスカが失くしたと言っていた、虹色のビー玉……」

 ジョーイの声は震えていた。

 再びあの光景が昨日の事のように蘇る。

 アスカと自分だけしか知らない会話──
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