ロストマーブルズ
 母と父の離婚。

 いや、もう前から仲が悪かったのかも知れないが、幼い記憶を辿れば、父親と完全に会わなくなったのもあの事件がきっかけだった。

 何を聞いても母親は教えてくれない。
 教えたくないほどに父親が憎いのだろうか。
 そしてジョーイはそれから笑うことを忘れていった。
 全てはあの爆発事故を見てから、自分も同じようにものの見事に吹っ飛んだ。

 速度が徐々に落ちていった。
 次の停車駅がそこまで迫っている。

 ジョーイの降りる駅ではないが、キノはどうするのだろうとジョーイはチラリと様子を伺う。

 隣のおじいさんはうとうとと眠っていたので、安心して前屈みになれた。

 まだ降りる気配も感じられず、キノは優先座席に座ったおばあさんと普通に会話をしている。

 あの様子からキノもまた完璧な日本語を話すバイリンガルだった。

 普通簡単にバイリンガルと言うけども、いくら片方の親が日本人とアメリカ人だからと言って、自然にどちらの言葉も話せるようになるのは大違い。

 言葉を話せるようになるには、環境とどれだけその言葉に毎日触れるかが問題である。
 そしてその機会をどれだけ手に入れるかで単語の蓄積の量が違ってくる。

 その国で生まれたものがその国の言葉を話せるようになるのは、常に耳にし生活することで自然に身につくからであり、そこにもう一つ他の言葉を覚えなければならない場合、同じようにもう一つの言語の環境を作らなければいけない。

 自分の努力はもちろんだが、そこに親の努力とお金がプラスされなくてはその環境を何もないところから作るのは難しいものなのだ。

 ジョーイも言葉に関しては多少の苦労を味わってきたので、キノはどのように育ってきたのだろうと益々興味をそそられた。

 心のどこかでアスカであって欲しいと訳もなく願う自分。

 馬鹿馬鹿しい空想と分かっていながら、そう思うことでアスカが存在していたと信じたかった。
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