ロストマーブルズ
 キノが降りる駅で一緒に下車して声を掛けてみよう。
 ジョーイにとっては大胆な行動に走ろうとしていた。
 
 それと同時に急に胸の鼓動が激しく打ち響く。

 感情など顔に出ることはなかったのに、体の中から経験したことのない血の騒ぎを感じ、ジョーイは誰に指摘された訳でもなく急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

 無意識に前髪を掻き揚げて、落ち着こうと何度も息を吸っては吐く。

 電車が停車して、ドアが開くと、降りる乗客はいそいそと車両から出て行った。
 念のためにキノを見ればまだ穏やかに話し込んでいる。

 やはりこの駅で降りる気はなさそうだった。
 一緒に降りる、その時を考えながら、ジョーイのドキドキはまだ続く。

 ホームで『間もなくドアが閉まります』というアナウンスが流れた時だった。
 キノはおばあちゃんに向かって会釈をしたかと思うと、ドアの附近に向かい閉まりそうなドアをするりと抜けていった。

 まるでその時を待っていたかのような降り方だった。
 一瞬のことで追いかけることもできず、ドアは完全に閉まって電車は動き出した。

 もしかして観察がばれていて自分は避けられていたのだろうかと、ジョーイは後味の悪い展開に顔を歪ませながら、やられたと思わずにはいられなかった。

 だがその時、ジョーイと同じ気持ちを抱いていた男が、同じ車両内にいた。
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