ロストマーブルズ
 その男は閉まったドアに駆け寄り、動く電車から悔しそうに駅のホームを歩いているキノを目で追っていた。

 拳を作り腹立ち紛れにドアを一度叩いていたが、他の乗客には降りそびれたマヌケな学生に映った。

 制服からすると光星高校のものだった。
 乗り換えの駅で会ったあの詩織と同じ学校の生徒だ。

 頭がいい生徒ばかりが通うレベルの高い高校だが、頭がいいからといって見かけは必ずしも比例するとは限らない。

 その男はふくよかな体つきで、髪も変に寝癖がついて全体の雰囲気がもっさりとした冴えない風貌だった。

 ジョーイはその男の様子を観察して、ふと勝手にストーリーを作ってしまった。

 この男はキノの後をつけていた。
 もしかして、キノがあのような行動をしたのはこの男から逃げるためだったのではないだろうか。

 ストーカー!

 ジョーイの頭にシャープに言葉が浮かぶ。

 男は諦めがつき、ドアの前に立ち静かに流れる景色を見つめていた。

 またその後姿をジョーイはもんもんと観察していた。

 一度抱いた否定的なイメージは、男の印象をさらに悪くしていく。

 目立たないオタクのような、何かに拘ってネチネチしていてそうで、ジョーイも嫌悪感を知らずと抱いていた。
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