ロストマーブルズ

「おばあちゃん! お帰りなさい」

「あら、聡ちゃん。わざわざ迎えに来てくれたの。よく帰ってくる時間が分かったね」

 聡と呼ばれた野球帽を被った男の子は、歯をにたっと見せながら、おばあちゃんよりも手に持っていた紙袋を見ていた。

 迎えに来た理由が土産目的と分かりながらも、おばあちゃんは孫がかわいくてたまらず、優しい微笑を向けて紙袋を差し出し、聡に見せていた。

 ガキだなと、ジョーイはその微笑ましい光景を、ふんと一蹴するように踵を返す。

 だが、おばあちゃんと孫の会話から気になるキーワードが耳に入ると、その足がまた止まった。

「さっきまでキノちゃんと一緒だったんだよ」

「えっ、ほんと。で、キノはどこ?」

「それが一駅前で急に用事を思い出したとか言って降りちゃった」

「なんで? キノのうち、この駅前のマンションじゃんか。何、道草食ってんだろう」

「そうだよね。美味しいケーキも買ってきたし、聡ちゃんも喜ぶから遊びに来てって誘ったんだけどね」

「なんで、お、俺が喜ぶんだよ。でもキノも残念だったな。折角ケーキ食べられるとこだったのに」

「残念だったね。聡ちゃん、キノちゃんに会えなくて」

「ち、違うよ。キノとは今週の日曜日会う事になってるから、別に今日会えなくても……」

 誤魔化そうとしてふと首を横に傾げた時、聡はジョーイと目が合ってしまった。
< 37 / 320 >

この作品をシェア

pagetop