ロストマーブルズ
 キノについての情報を手に入れるスパイのように、ジョーイは二人の会話を真剣に聞いていたため、もろに聡と見つめ合い、面食らってしまった。

 そのまま目を離してさりげなく去ればいいものを、突然のことに頭が回らず固まってしまう。

 一方で祖母に本当の気持ちを悟られた聡は、持っていきようのない気持ちをぶつけるかのごとくキッとジョーイを睨みつけた。

「何見てんだよ、バーカ!」

「これ、聡、なんて失礼な。どうもすみません」

 深々と頭を下げ、おばあちゃんは慌てて聡の腕を引っ張り、ジョーイの顔を見る余裕もないまま小走りに去っていった。

 それでもジョーイはあっけに取られてまだ二人を見ている。

 その時、もう一度だけ聡が振り返り、ジョーイに向かってべーっと舌を出して威嚇の態度を示した。

 祖母が「これっ!」と注意をしているが、いつしか二人は人ごみの喧騒の中へと消えていった。

「ちぇっ、なんだよ、ほんとにガキだ」

 ジョーイもむっとしながらも、立ち聞きしていた事実を認めると、自分が悪かったことに気がつく。

 身から出た錆とでも言いたげに、少し長くなった前髪をパラリと掻き上げ、チェッと舌打ちが自然に洩れると、ゆっくりと足を動かした。

 何をやってるんだと自分が情けなくなる。

 キノがばら撒いたビー玉から、刺激された記憶が好奇心を呼び覚まされ、ほんの小さな出来事をきっかけに、急激に心がざわめき出す。

 自分でも不思議だと戸惑い、無意識に下唇を噛んで眉間に眉を寄せていた。
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