ロストマーブルズ
 早川真須美は苦笑いになりながら、カルテとペンを手に取ると足を組み直し、きりっとした表情をジョーイに向けた。

 そして芸術作品の価値を探るようにジョーイの顔を眺める。

 ファーストネームが英語、苗字が日本語。
 その名が意味している通り、ジョーイは日米ハーフであった。

 17歳の多感な年頃。
 春休みが終わればこれから高校三年に進級する予定だった。

 緩やかな癖がついた栗色の髪は、見るからにしなやかで柔らかく、猫を撫でるような気持ちでつい触れたくなる。

 さらに日光の下では益々明るい透き通った金髪へと変貌する。

 基本的に日本人の母親に似ているが、色素の薄い虹彩と堀の深さが西洋の血を感じさせた。

 顔は文句のつけようがないほど整って美しいが、早川真須美はそれ以上のものを見ようと鋭く目を光らせた。

「それじゃ本題に入るわよ。目を閉じてリラックスして。そして心に引っかかってることを思い浮かべて」

 ジョーイはまた始まったかと、うんざりしながらも、大人しく瞼を閉じた。

 同じ事を何度も繰り返し言っている。そのせいで何度も同じ夢を見ていた。

 またこの日も、あの時の事がありありと浮かんでいた。
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