ロストマーブルズ
 男の子はきょとんしてジョーイを振り返り、そして母親の側に走っていった。

 何か話し込んでいるみたいだが、母親は適当に聞いて商品を選ぶのに忙しい素振りをしていた。

 折角の遊びを邪魔して、まずかったかなと、ジョーイは少し口元を歪ませた。

 携帯の操作を終えたトニーは、携帯を鞄にしまいながら皮肉るように口を開く。

「お前さ、本当の魚の数も数えてないのに、いい加減なこと言って小さな子供をからかうなよ」

「数えたよ。数えたから21匹って答えたんだ」

「あんな一瞬でかよ。うそだ」

「だったら数えてみな。ちゃんと21匹いるから」

 トニーは水槽を見つめ数え出した。

「あっ、ほんとだ21匹いる」

「だろ?」

「でもこういうの、なんていったっけ。そうそう『まぐろ』!」

 ジョーイは首をかしげ、暫く考えて気がついた。

「ばか、それを言うなら『まぐれ』だろ!」

「なんだ自分で認めてるじゃないか。やっぱりそうなんだよ」

 ジョーイはどうでもよくなり、ハイハイと相槌して他の食品に目をやった。

 二人は他愛もない会話をしながら買い物を続ける。

 レジで清算し、商品を袋に詰めているとき、ジョーイはふと視線を感じ辺りを見渡した。

「どうした? 知ってる奴でもいたのか?」

「いや、なんか誰かが見ていたような気になった」

「そりゃ、俺がいるもん。皆どうしても見ちまうんだよ。そのうちサインしてとか来ちゃうぜ」

「そうだよな。トニーが居ればどうしても目立っちまうな」

 口ではそう言ってみたが、ジョーイにはどうしても監視されている被害妄想が抜けきらなかった。

 二人がスーパーから出て外に出ていく。

 その姿を客に紛れて見ている輩が本当にいた。

 そしてそいつは携帯を取り出して指先を忙しく動かしていた。

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