ロストマーブルズ
 ジョーイもトニーも唖然としてその画面に釘付けになっていた。

 犬が強盗から離れた時、コンビニの従業員がカウンターを飛び越え強盗を押さえつけているところでその映像は終わった。

 キノはその映像ではどこにも映ってなかった。

「トニー、信じられるか。あの犬、キノが連れてた盲導犬だよな」

「ああ、そうだよな。盲導犬って人襲うんだな」

「違うだろ。問題はそこじゃない。俺が言いたいのはあれが偶然の出来事なのかってことだ」

「そうじゃないのか、だってキノはあの後急いで逃げてたし、強盗とは知らずに人襲ったと思ったんじゃないのか?」

「偶然にしてはできすぎてると思わないか。あの時、キノは強盗がいると分かって犬を連れてコンビニに入ったとしか考えられない」

「おい、おい、考えても見ろよ、キノは女だぜ。ナイフを振りかざした強盗と分かって自ら危ない目に遭いに行こうとするか?」

「じゃあ、どうしてあの時コンビニに入ったんだよ」

「あいつ、携帯電話持ってたじゃないか。あの時電話が掛かってきて、誰かから何か買って来てくれって言付かったんじゃないのか。偶然コンビニの前に居たから、それで盲導犬の訓練中とはいえ、犬を連れて入るには抵抗があって、サングラスをかけて目が不自由なフリをしたんじゃないだろうか。そしたら強盗がナイフ持ってたから、犬がビックリして襲ってしまった。光るものを見たら興奮する犬もいるし、キノはやばいと思って、犬が戻ってきた時にダッシュで逃げた」

 ジョーイはトニーの推測に納得できなかった。

 それには詩織が言っていた痴漢の撃退の話を聞いていたからだった。
 あの時、詩織は計算された行動だといっていた。

 キノも否定したし、彼女のドジそうな冴えない風貌のせいでジョーイも勘違いされていたと思ったが、この事件を見ればやはり計算されていたように思えて仕方がない。

 キノは強盗と知っていて自ら犬をけしかけたに違いない。
 それがジョーイの見解だった。
 そしてストーカーに追いかけられて煙に巻いたときも、見事にスマートなやり口だったのを再確認する。

「あいつ、只者じゃない」
 ジョーイの脳裏にはしっかりとキノの存在が植え付けられた。
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