ロストマーブルズ
 複雑な感情を抱えながら、ジョーイは惰性で学校を目指して歩いていた。
 無愛想な顔で校門の前に来た時、つい軽く舌打ちしてしまった。
 生徒指導の一環で、シアーズが生徒達に英語で声を掛けていたからだった。

 シアーズは同じようにトニーとジョーイにも「グーッモーニン」と挨拶をするが、その目はどこかジョーイを厳しく見ていた。
 
 二人は面倒はごめんだと無難に答え、そのまま去ろうとするも、シアーズはジョーイを呼び止めた。

「(ジョーイ、相変わらず笑わないよな。あと一年で高校生活も終わりだろ。もっと青春を楽しめよ)」

 余計なお世話だった。
 シアーズはジョーイが気に食わないのか、顔を見る度につまらない小言を言う。

 ジョーイは不快感を抱きながらも、鋭い目つきをシアーズに返し反抗していた。

「(そうそう、俺みたいに楽しめって言ってるんですけどねぇ)」

 トニーが相槌を打つように気軽に話す。

「(お前は遊びすぎだ。身をわきまえろ)」

 シアーズはそれを一蹴し、トニーに呆れた目を向けた。

「(ハイハイ、肝に銘じておきます)」

「(それからトニー、話がある。昼休みにでも来い)」

「(ハイ、了解しました)」

 トニーはおふざけで手のひらを額に当てて敬礼していた。

 いくら担任とは言え、お節介なことまで口を挟むので、ジョーイはシアーズが好きではなかった。

 他の生徒にはしつこく口を出してるところを見たことがない。

 シアーズもジョーイのような生徒は扱い難いのか、何か嫌味の一つでも言わないと気がすまないらしい。

 それなのに、母親は学校の先生だからということで、何かあればシアーズを頼れという。
 男親がいないだけに、こういう存在が必要だと思い込んでいるように思えた。

 迷惑極まりなかった。
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