ロストマーブルズ
「なんか、お前呼び出し喰らったけど、シアーズの奴、うるさい奴だぜ」
 気持ちのはけ口を求めるようにジョーイは小言を呟いた。

「まあな、何かとうるさいのは分かる。でも俺はあの人には頭が上がらないし、それにきついこと言われてもそんなに嫌でもないんだ。呼び出されたのもなんか理由があってのことだと思う」

「トニーがそんなこと言うなんてなんか意外だな」

「そうか。あいつさ、頭いいし、年も40過ぎの割りに若く見えて顔もいいだろ。完璧すぎて返す言葉がないんだよな。だから言うこと素直に聞いてしまうんだ」

 シアーズは確かに精悍で貫禄もあり、男の目から見てもかっこいい部類だった。
 日本語も困らない程度に話せるが、その他にも数ヶ国語話せるらしい。

 だが性格はネチネチしていると思うと、ジョーイは素直に認められなかった。
 
 ふてくされた顔をしていると、トニーは苦笑いしていた。

「そういえば、気難しいところはジョーイと共通するところがあるかも。似てるところがあるからお互い気が合わないんだろうね」

「一緒にするな」

 ジョーイが苛立っていても、トニーは気にせず気持ちを切り替え、出会った友達に気軽に声をかけていた。

 トニーは女好きで女性ばかりに声をかけているだけではなく、アメリカ人らしい積極的な行動派で社交性にも長けていた。

 ジョーイと違い、先入観なく自然に人と接し、友達の輪を広げ、学校の先生までもトニーと親しい。

 次々とトニーを慕って気軽に声を掛ける生徒たち。
 そしてそれを受け入れ、ボディタッチを加えて楽しそうに話すトニーの姿。

 そんな様子を見ていると、自分はどこか人間性が劣っているとジョーイは感じてならならなかった。

 コンプレックスを刺激され、先ほどのシアーズのことで気分を害してることもあり、面白くないと目の前の光景から目を逸らしてしまった。
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