ロストマーブルズ
「それで、他には?」

「もう一人は、その痴漢の疑いをかけてしまった人。渋川カオル……」

 詩織は言い辛そうにしていた。

「痴漢本人の登場か」

「でも、あれは証拠がなかったし、まだそうだとは決め付けられない。だから事件の後、暫くして渋川君が私にキノちゃんのことを尋ねてきたときはどういう意図があったのか全くわからなかった。聞かれたけど、私は話をしたくなくて無視をしたけどね。そして三人目がジョーイだった。これで満足かしら」

「あ、ああ。ありがとう」

「ねぇ、あなたはどんな不思議なことをされたの?」

「俺は、その…… なんていうのか、あいつ危なっかしくて放っておけないって言うのか」

 あまり詳しいことを話すのをジョーイは躊躇った。
 しかし放って置けないという言葉が詩織の理解をどんぴしゃりと得る。

「うんうん、わかるわかる。その気持ち。前にも言ったけどキノちゃんみてたら妹みたいに思えて。私も放っておけないんだ。実際キノちゃんみたいな妹がいるんだけどね。ほんとにハーフなんだ。うち、両親が離婚しててね、私は父に引き取られたんだけど、母親はその後アメリカ人と再婚しちゃったの。それで妹が生まれたんだけど、子供の時に一度会っただけで、もう何年も会ってなくてさ、だからキノちゃんとつい重ねて見ちゃうの。年も同じくらいだし」

「なんか深い事情がありそうだな」

「うん、妹の名前はアスカっていうんだけど……」

「えっ? アスカっ!?」

「えっ、どうかした?」

「いや、別に、それでどうしたんだ」

「うん、小さいときに事故に巻き込まれちゃってね、その原因を作ってしまったのが私なんだ。幸い怪我は軽かったんだけど、でも良心の呵責はずっと感じたまま。だからキノちゃんを見るとアスカを思い出して本当に放っておけなくなっちゃうんだ」

 ジョーイの血液は走るように騒がしくなり急に心臓が激しく波打っていた。
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