ロストマーブルズ
　「一体俺は何人だ！」といつも大声で叫びたくなってしまう。

　どこに居ても基本的な状況は何も変わりはしないが、日本に住んでからジロジロ見られる回数が増えたように思った。

　それは常に誰かに見張られていると感じるほど異常な程に。

　しかし、本当に誰かが故意にジョーイを監視しているとしたら──

　それが自分の過去の記憶に関係のあるものだとしたら──

　消えたアスカと家の爆発の消化できない曖昧な記憶。

　カウンセリングを受けさせられる理由がこれなのだろう。

　過去に苦しみ、環境の変化の中で妄想を抱き、壊れる道まっしぐらの若き青年。

「くそっ、また視線を感じる」

　ジョーイは突然立ち止まり、生み出してしまった妄想の中の監視者を確かめるように後ろを振り向く。

　側に居た周りの人間達は、ジョーイとすれ違いざまに一瞥を投げかけて歩いていく。

　ジョーイは鼻でバカにするように笑うと、また歩き出して人ごみの中に紛れて行った。


　しかし、離れた建物の物影にじっと隠れて、ジョーイを目で追うものが確実に存在した。

　その人物は、狼のように鋭い目を向け、自分の欲望をむき出しに、口元に笑みを浮かべていた。
　
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