ロストマーブルズ
「おい、これで決まりだな」

 トニーがそういうと、ジョーイは「ああ」と頷く。

「やっぱりキノは強盗がいると分かっていてわざとああいう行動を起こしたってことになるな。店長が聞いたシックレーっていうのは Sic legs のことだろう。犬をけしかけるときに、使う言い回し。すなわち、『足を噛め!』って命令をキノは出していた」

 トニーが言いたいことを言い終わるとまたボトルに口をつけた。

「あいつ、やっぱり考えて行動していた。そうすると俺が詩織から聞いた話も全てキノが分かっていてやったことになる」

 ジョーイは制服の背広のポケットに入れていたビー玉を取り出し、それを眺めた。

「どうした、ジョーイ? まだなんかあるのか」

 トニーに声を掛けられて、慌ててまたビー玉をポケットにしまいこむ。
 そして首を横に振った。
 トニーはその様子を怪しげに見ていたが、何も言わずにドリンクを飲み続けた。

 ジョーイはどこか落ち着かず、目の前の道路を走る車に視線を向けていた。

 キノが起こした行動が全て計算されたものなら、このビー玉をばら撒いたのもわざとだってことになってしまうのか?
 だったらそれはどういう意味があるんだ。
 それともこれだけは本当に偶然だったのか。

 ジョーイはまだ全てがはっきりしないと、少し自棄になってドリンクを喉に流し込んだ。
 それが空になると、ゴミ箱に荒々しく捨てた。

「さあ、トニー帰るぞ。とにかく夕飯の用意だ」

「今日もジョーイが作ってくれるんでしょ。ジョーイの料理最高だもん」

 ジョーイは媚を見せるトニーにふんと鼻から息を漏らし、踵を返して歩き出す。
 その後をトニーはへこへこついていく様子をみせたが、トニーの目は笑っていなかった。
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