ロストマーブルズ
「どうした、ジョーイ?」
「俺、俺……」
「はっ、俺俺詐欺か?」
「帰るわ……」
「どうしたんだ。さっきまでの情熱はどこへ行った」

 ジョーイは向きを変え、力なく歩いていく。

「仕方がないな。ちょっと慣れないことして俺がそこを指摘したからって怒るなよ」

 トニーは後ろから、ジョーイの頭をくしゃくしゃとつぶすように髪を掻き回してからかった。

 ジョーイは気分を害した訳ではなかった。
 あることに気がついてしまった。

 それは自分でもびっくりする感情。
 アスカに会いたい。
 そしてアスカが恋しいと。

(あの時、俺はアスカを失って、知らずと幻だったと思い込もうとして自分を抑えていた。感情を外に出す事を拒んだ。怖かったんだ。失くしたものが何であったか気づきたくなかったんだ)

 ジョーイはぎゅっと二つの拳を握っていた。
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