(仮題)魔女のいるファンタジー
 リネイジ。
 ありふれた言葉だった。

 毒林檎の説明は、その珍しくも何ともない言葉に続けて、魔鏡さんが放った次の一言で終わった。

 それから、白雪さんが口を開いた。

「二人に、そばに──いてほしいんです」

 毒林檎の話を聞いて、僕がなんでそれが「毒」林檎なのか、何を深刻になる必要があるのか、未だ理解できないでいると、白雪さんは言った。

「本当は今日ここで二人にお会いして、その思い出を胸にしまって、それだけにするつもりでした。それでいいと思っていました。でも、私は怖い。残り半分の毒林檎を食べたら、きっと私は──変わってしまう。どうしようもない程に。思い出も、この想いも、きっと全部わからなくなってしまう」

「そんな──馬鹿な」
 やっとの思いで、僕は言葉を紡ぎ出した。

「だって『リネイジ』の話なんて──そりゃ僕でも知ってるほど、ありふれたものですよ? あなたの言う毒林檎だって──僕の知り合いにも食べたんじゃないかって奴がいますけど、それが・・・・・・何か特別なことなんですか?」

「特別なことなんだよん」
 魔鏡さんは不謹慎にクスクス笑って、ナイフみたいな水色の瞳で語った。

「姫が食べたのはね、そしてこれから食べるのは──そんじょそこらのマガイモノじゃあない、正真正銘、魔女の毒がたぁ──っぷり塗られた毒林檎なんだねェ」

「はあ?」

 僕がまだ首を捻っていると、
「お願いします。私のそばにいていただけませんか」
 白雪さんが繰り返した。

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