(仮題)魔女のいるファンタジー
「おいアノン」
 僕は戦慄しながら、幼なじみの婚約者に尋ねる。

「お前、このこと知ってたか?」
「はあ──? 知るわけねえじゃん。王族御用達って奴だろ? へえ──」

 アノンはのんきに言って、感心した様子でトイレに出現した通路を眺めている。

「・・・・・・だよな」

 魔境さん、あなた本気で一体何者ですか──!?

 こんな妖しげなものが自分の部屋に存在していたとは、当の住人であるこの僕でさえ、たった今まで知らなかったのだ。
 誰にも教えられたことなどなかったし、「有事」などそうそう起きるはずもない平和なこの国の現代では、このまま知らずに一生を過ごしていた可能性も高い。

 こんな通路の存在は門外不出の王家の秘密──最高レベルの国家機密に属する情報なのではなかろうか。

 魔境さんが何者なのかも気になるが、そんな情報が門外に漏洩しまくっているとは──。

「こ──この国の国家情報管理はどうなってるんだ!?」
 僕は本気で心配した。
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