Apricot
彼は一人で踊っていた
いつになく無気力な表情で
しかし熱は持ったまま。

ダンスの面白さに目覚めた彼は高校進学を辞めたと聞いた。
中学を卒業してからは、あたかも私達、同級生を避けるかのように音信不通になっていた。

初めて会った時から彼は蜉蝣みたいな人だった。
掴みきれない、消えてしまいそうな。
今でも覚えている、あの瞬間を。
別に少女漫画のような特別な出会いをしたわけではない。
目が会ってこの人だと運命を感じたわけでもない。
中学に入学して数日、まだ冷めない新鮮味を帯びた興奮の中で、別に席が近かったわけではないのに、何故か。
この人の目に映る光はどれほどに鮮やかで、また闇はどれほどに深いものかーーー
測りきれない瞳に、興味をひかれた。


私は彼が休憩するタイミングでガラス張りになった壁を少し叩く。
彼の変わらない釣り目がこちらに向いたのを見て懐かしさを感じながらドアを開ける。
私は久しぶり、と呟くように言う。
彼もまた、もう何かを諦めたかのように久しぶり、と呟いた。
後に続く言葉を必死に探しながら、連絡先だけで聞いておこうと携帯を取り出す。
それに気づいた彼もまた携帯を取り出した。
某メッセージアプリの連絡先を交換した。
そして彼はじゃあね、と一言、さっさと練習に戻ってしまった。
相変わらずの自由さに呆れながら、私は何かしら言いかけた言葉を飲み込んでその場を後にした。
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