秘書室室長がグイグイ迫ってきます!
泣いちゃいけない。
奈津はそんなこと望んでない。
「それじゃあ、幸せにならないとな」
伊吹さんはそう言うと、私の涙を手で拭ってくれた。
「会議に行ってくる。広瀬は落ち着いたら資料の整理をしておけ」
「はい」
上司の顔に戻った彼は、優しく微笑んでから出ていった。
「奈津。私、幸せになるよ」
彼女に裏切られたという事実は消えない。
でも少しも悪びれない紳に、彼女が手を下してくれたんだと思う。
彼女は紳が別れを切りだした理由を知っていたに違いない。
でも、私がもう前を見て進んでいると知ったから……。
「奈津も、幸せになって」
私は自分の頬をパンパンと叩き気合を入れると、秘書室に戻り仕事を始めた。