秘書室室長がグイグイ迫ってきます!

「あっ……」


すると、排水溝の溝にヒールが挟まって、折れてしまった。


「もう!」


あと少しなのに……。

私は仕方なくパンプスを脱ぎ走りはじめた。
小石が足に突き刺さる痛みも、間に合わないことに比べたらなんでもない。

伊吹さんから電話が入っていることに気がついたけど、出ている暇もない。
とにかく今は、この資料を時間までに届けたい。

やがてホテルの玄関が見え、伊吹さんらしき人の姿を確認するとホッとした。


「広瀬!」


彼はすぐに私に気がつき、駆け寄ってくる。


「資料、お持ちしました」

「お前、どうして……」

「事故でタクシーが動かなくなって……そんなことより早く!」


予定の時間まであと五分。
おそらく社長も聡さんももう中でスタンバイしているはずだけど、やっぱり伊吹さんが必要だ。
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