秘書室室長がグイグイ迫ってきます!
「あの資料、役に立ったよ」
「コート、ありがとうございました。温かかったです」
彼の気持ちの詰まったコートは、私の心まで温めてくれた。
「いや。今日は残業はいいから、できるだけ早く帰れ」
「ありがとうございます。そうします」
やっぱり彼がそばにいてくれると、ホッとする。
私の誕生日はそうやって慌ただしく過ぎていった。
私は伊吹さんが言ったように、定時で席を立った。
こんなことは珍しいけれど、やっぱりクタクタだった。
「お疲れ」
「お疲れさまでした」
伊吹さんに挨拶をして秘書室を出たものの、すぐに彼が追いかけてくる。
「悠里」
そして、人気のない階段の踊り場に私を誘導した彼は、私をそう呼んだ。
「平気か?」
「はい。治療していただきましたし、靴もありがとうございました」
「そんなことはいい。お前が無事なら、それでいい」