机上の言の葉
お使いと鈴
アリスのお使いもあるけれど、テストも疎かにできない。
あまり点数を取る事は意識していないけれど、単位がもらえないのは困る。
だからというわけではないが、休日の今日は図書館で勉強することになった。何故か音無さんと。
『別に一緒に勉強する意味無いよね? 音無さんと授業どころか学部も違うし』
向かいの席で頭を抱えている音無さんに、すっとメモを差し出して、勉強に戻る。
大学の図書館には勉強ができるように机が設置されていて、テスト前のこの時期大体どこも埋まってしまっているのだけれど、ここにはあまり人がいない。
理由は簡単で、もっとも出入り口から遠く、周りにある本棚には辞書や英語の専門書ばかり、極め付けに余ったスペースにとりあえず机を置いておきましたと言わんばかりの配置だから。
聞こえるのは鉛筆を走らせる音か、ページをめくる音だけで、二人同時に手が止まった時には耳が痛いほどの無音が訪れることもある。
声を出すのも躊躇われたので、ここでのやり取りは筆談。
何かがあれば紙に書いて渡し、渡された側はきりが良い所で答える。
『誰かが居ないと、ついサボっちゃうんだよね。
一人でここに来るのも、寂しくなってきたし』
相互監視をして、勉強を促そうと言う事か。僕は別に一人でも勉強は出来るけれど、こうやって誰かと一緒にテスト勉強をすることに憧れていたので、結構嬉しい。
それぞれやっている事は違うから、教え合えないのは残念ではあるけれど。
『さっきから割とすぐ返事が来るけど、勉強進んでる?』
『進んでるよ?』
言葉と裏腹に顔を逸らす音無さんは、多分あまり進んでいないのだろう。ページをめくる音も何かを書く音もこちらに比べたら多くないのだから。
僕に出来る事もないので、『じゃあ、頑張って』と返してから、自分の勉強に戻る。
再開したのも束の間、音無さんが背後に忍び寄り横からノートを覗き込んできた。
「どうしたの?」
小声で尋ねたところ、音無さんは悪びれた様子も無く『お腹空いた』と書かれた紙を見せる。
時間も正午を過ぎていたので、机の上を片付けてから席を立った。
大学近くのファミレスは、昼時なのもあって人が多かった。
幸い待ち時間も無く席に案内はされたけれど、料理が出来るまで時間はかかるらしい。
忙しそうにしている店員に目をやっていたら、テーブルに何気なく乗せていた手をポンポンと軽く叩かれた。
手元を見たら、メモ用紙が差し出されている。
『テストが終わったら、何処かに遊びに行かない?』
「何か食べたいものがあるの?」
メモ用紙が戻って行った先に、ムッとした音無さんの顔があって、メモ用紙を睨みつけて何かを書いている。
何度も会ううちに分かったけれど、この反応をしている時の音無さんは本当は怒っていない。
『違う。折角大学生なんだから、小旅行って言うのをしてみたいって思っただけだよ』
「音無さんは何処か行きたいところとかあるの?」
『いつもわたしの我儘に付き合って貰っているから、成宮君が行きたいところかな』
行きたいところと言われても、特に何も思い浮かばない。
でも、行かないといけないなと思う場所はある。
「地下水や湧き水とか、きれいな水が汲めるところかな」
『またお使い?』
「これで最後なんだけどね。お店で売っているような水じゃ駄目なんだって」
音無さんは不思議そうな顔でこちらを見た後で、何か思い当たる節でもあるのか考え始めた。
『だったらさ、温泉とかどうかな?』
「温泉?」
『温泉って地下からくみ上げているお湯で、飲めるものもあるって言うから』
音無さんの言っている事はおおむね正しいと思うのだけれど、水とお湯って違いはある。
でも、駄目だったら駄目だったで、また探せばいいのだから「行ってみようか」と応えた。
そこから先、音無さんは前々から決めていたとばかりに、具体的な場所や交通機関を書いて楽しそうに見せる。
『前から行ってみたかったんだ』
「だろうね。すぐに情報が出てきたし」
『行くって事で進めていいかな?』
頷いて返した所で、料理が来たので話は一度お開きになった。
あまり点数を取る事は意識していないけれど、単位がもらえないのは困る。
だからというわけではないが、休日の今日は図書館で勉強することになった。何故か音無さんと。
『別に一緒に勉強する意味無いよね? 音無さんと授業どころか学部も違うし』
向かいの席で頭を抱えている音無さんに、すっとメモを差し出して、勉強に戻る。
大学の図書館には勉強ができるように机が設置されていて、テスト前のこの時期大体どこも埋まってしまっているのだけれど、ここにはあまり人がいない。
理由は簡単で、もっとも出入り口から遠く、周りにある本棚には辞書や英語の専門書ばかり、極め付けに余ったスペースにとりあえず机を置いておきましたと言わんばかりの配置だから。
聞こえるのは鉛筆を走らせる音か、ページをめくる音だけで、二人同時に手が止まった時には耳が痛いほどの無音が訪れることもある。
声を出すのも躊躇われたので、ここでのやり取りは筆談。
何かがあれば紙に書いて渡し、渡された側はきりが良い所で答える。
『誰かが居ないと、ついサボっちゃうんだよね。
一人でここに来るのも、寂しくなってきたし』
相互監視をして、勉強を促そうと言う事か。僕は別に一人でも勉強は出来るけれど、こうやって誰かと一緒にテスト勉強をすることに憧れていたので、結構嬉しい。
それぞれやっている事は違うから、教え合えないのは残念ではあるけれど。
『さっきから割とすぐ返事が来るけど、勉強進んでる?』
『進んでるよ?』
言葉と裏腹に顔を逸らす音無さんは、多分あまり進んでいないのだろう。ページをめくる音も何かを書く音もこちらに比べたら多くないのだから。
僕に出来る事もないので、『じゃあ、頑張って』と返してから、自分の勉強に戻る。
再開したのも束の間、音無さんが背後に忍び寄り横からノートを覗き込んできた。
「どうしたの?」
小声で尋ねたところ、音無さんは悪びれた様子も無く『お腹空いた』と書かれた紙を見せる。
時間も正午を過ぎていたので、机の上を片付けてから席を立った。
大学近くのファミレスは、昼時なのもあって人が多かった。
幸い待ち時間も無く席に案内はされたけれど、料理が出来るまで時間はかかるらしい。
忙しそうにしている店員に目をやっていたら、テーブルに何気なく乗せていた手をポンポンと軽く叩かれた。
手元を見たら、メモ用紙が差し出されている。
『テストが終わったら、何処かに遊びに行かない?』
「何か食べたいものがあるの?」
メモ用紙が戻って行った先に、ムッとした音無さんの顔があって、メモ用紙を睨みつけて何かを書いている。
何度も会ううちに分かったけれど、この反応をしている時の音無さんは本当は怒っていない。
『違う。折角大学生なんだから、小旅行って言うのをしてみたいって思っただけだよ』
「音無さんは何処か行きたいところとかあるの?」
『いつもわたしの我儘に付き合って貰っているから、成宮君が行きたいところかな』
行きたいところと言われても、特に何も思い浮かばない。
でも、行かないといけないなと思う場所はある。
「地下水や湧き水とか、きれいな水が汲めるところかな」
『またお使い?』
「これで最後なんだけどね。お店で売っているような水じゃ駄目なんだって」
音無さんは不思議そうな顔でこちらを見た後で、何か思い当たる節でもあるのか考え始めた。
『だったらさ、温泉とかどうかな?』
「温泉?」
『温泉って地下からくみ上げているお湯で、飲めるものもあるって言うから』
音無さんの言っている事はおおむね正しいと思うのだけれど、水とお湯って違いはある。
でも、駄目だったら駄目だったで、また探せばいいのだから「行ってみようか」と応えた。
そこから先、音無さんは前々から決めていたとばかりに、具体的な場所や交通機関を書いて楽しそうに見せる。
『前から行ってみたかったんだ』
「だろうね。すぐに情報が出てきたし」
『行くって事で進めていいかな?』
頷いて返した所で、料理が来たので話は一度お開きになった。