笹に願いを
社の玄関前まで来たとき、そこに飾ってある笹飾りに、私たちの視線は吸い寄せられた。
私たちが勤める出版社では、毎年7月1日になると、数本の笹飾りが玄関前に置かれる。
そして社員は、配布される短冊に願い事を書いて、葉竹に飾る。
これは、他の人たちの目に留まるものでもあるので、実名を書く必要もない。
名前は書かなくてもいいし、「織江」みたいに名前だけでもいいし、「天野」といった名字だけでもオーケー。
イニシャルとかあだ名といった、とにかく本人だと分からない名を書いても良し。
願い事の内容も含めて、その点は自由だ。
でも、これは強制じゃないので、別に書かなくてもいいんだけど・・・。

荷物で両手が塞がっている天野くんは、つぶらな瞳で笹の方を示しながら、「今年も書いたか?」と私に聞いてきた。

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