笹に願いを
大げさに嘆きながら、天野くんはベッドサイド側に移動してくれた。
でもほんのちょっとだけしか動いてない・・・けどいい。
多少暑くても、暑苦しさは全然感じないから。
これくらいの距離で、ちょうどいい。

一人納得した私は、天井に向かって笑みを浮かべていた。

「おまえさ、こんな夜過ごしたことあるか」
「こんなって?」
「一晩中誰かと語り明かしたこと」
「あぁ・・・」

私は暗い天井を見ながら、ざっと過去を振り返った上で、「ないよ」と答えた。

「女友だちの家に泊まったときとか、最後の元カレとも」
「“最後の元カレ”か」
「もう何年も前の話だよ」
「どんくらい前」
「えっと・・天野くんと一緒に仕事始める前だからー・・・5年以上前じゃない?」
「うわ、長」
「だよねぇ 。それより天野くんは?」
「俺もない。大体俺、無口だし」
「えー?そーおー?」

疑惑満載の、でも声を潜めて言いながら、私は隣にいる天野くんを見た。
その彼は、組んだ両手のひらを後頭部に置き、天井を見ながら、「てか俺、一番いっぱいしゃべってる相手っておまえだし」と言った。
その言い方が、すごく自然でアッサリしてて、恋愛めいた意味深な響きは全く感じられない。

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