笹に願いを
「・・・江。お~い。お~りえ~」
「えっ?」

突然目の前に、大きな手のひらが見えてハッとしたものの、私は左側だけ頬づえをついたまま、手のひらの主に顔を向けた。

「・・・何、天野くん」
「撮影。そろそろ出ないと」
「あぁ・・もうそんな時間か」
「“今日の現場遠いから、余裕持って出た方がいいよね”って言ったの、おまえの方だろ」
「そうだったね。ていうか、やばい」
「何が」
「いつも私が天野くんに言うセリフを、天野くんが私に言ってるんだもん。どう考えてもやばいでしょ」
「あぁそうだなぁ・・っておい!」
「ごめんごめん」

私は笑いながら謝ると、「準備できた?」と天野くんに聞いた。
「できた」
「忘れ物ない?」
「ない」
「じゃあ行こ」

必要な荷物を持った私たちは、スタッフや編集長に「現場行ってきまーす」と言って、部屋を出た。

< 9 / 224 >

この作品をシェア

pagetop