今日も来ない、きみを待ってる。
『そうだ。これも何かの縁だし、うちのカフェの割引券あげるよ』

"麻倉さん"は財布から名刺サイズの紙を1枚取り出して、私に差し出す。
割引券にはドリンクが全て半額と書かれている。

『いいんですか?』

エクセレントコーヒーは高校生にとっては贅沢で、なかなか行く機会がない。
私も母親に連れられて何度か行ったことのあるくらいだった。

『気が向いたらおいでよ。じゃあそろそろ俺行くね』

そう言って"麻倉さん"は、私に背を向けて歩きだす。

あ、行ってしまう。
そう思った私は、無意識に"麻倉さん"に向かって叫んでいた。

『あの……っ!』

呼び止めると"麻倉さん"は振り向き、不思議そうに私を見た。

『私、"るい"と言います!麻倉さんのお店、絶対行きますから!』

叫ぶ私を見て、"麻倉さん"は笑って手を振った。

何故名乗ったのだろう。
その時はわからなかった。

いま考えたら私はもう、この笑顔に射ぬかれていたんだろうなと思う。
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